「噛むと上の奥歯が痛い」ということで来られました。
よく診ると歯が割れていました。歯牙破折というものです。左の写真の赤〇の部分、歯が割れているのがわかりますでしょうか?
どうやら歯ぐきの中深いところまで割れているようです。噛んで痛いという症状からすると破折は歯の中央にある歯髄(神経)まで到達しているようです。噛むたびに割れた部分が広がって、直接歯髄を刺激するのでかなり痛いです。破折した隙間に沿って口の中の細菌がすぐに侵入します。そうして歯髄が感染して歯髄炎になると、噛まなくても常に痛むようになります。
残念ながらこうなると抜歯しなければなりません。歯を失うことになります。歯ぐきの中深くまで割れてしまっている歯を引っ付けることができないからです。
「歯が割れる」ということは、珍しいことではないのです。重度の虫歯や歯周病と同じように、歯を失う原因の一つにあげられます。
奥歯には通常自分の体重ほどの力がかかります。強く咬む習慣のある人では、100㎏を超えるような力がかかる場合もあります。そしてその力が何年、あるいは何十年とかかりつづけることが考えられます。
そのような強靭な力でも、左の図のように歯に対してまっすぐな方向にかかっていればまだ安心なのですが、下の図のように歯に対して斜めに力がかかると危険です。その力でギリギリ歯ぎしりしたり、その歯に大きな詰め物があったり、歯髄(神経)がすでに失われているとさらにその危険度は増します。割れて失われる可能性が高くなるということです。
しかし歯が割れる場合は、ゆっくり割れることはなく、通常一瞬でわれます。ですので、歯牙破折を未然に防ぐには、割れそうな兆候がないかどうかを細かく診査する必要があります。
・多くの場合、割れてしまう前に亀裂が見つかることが多いので亀裂がないかチェックします。
・大きな詰め物がないか?残っている歯が薄くなっていないか?をチェックします。
・特に奥歯ですが、強い力で揺さぶられていないか?大きなすり減りはないか?をチェックします。
それらをチェックするために直接口の中を診察するだけでなく、写真や顎の動きが正確に再現できる石膏模型、レントゲン写真、また歯だけではなく、顎や顎を動かす筋肉の状態も診査します。
このような資料を丁寧に分析することで、将来の歯牙破折の危険性を診断して、歯牙破折を予防する手立てを考えることができます。
歯を快適に残していくためには、このような咬み合わせの診査がとても有効です。
キーワードは、丁寧に診察すること。私たちのクリニックでは、デンタルドックやメンテナンスを通して破折の予防にも取り組んでいます。