周術期の口腔ケア

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左の写真はかなり進んだ歯周病の状態です。歯ぐきが腫れて出血しています。この方のお口の中にはすさまじい数の細菌が住み着いています。その数は健康な口とは比べ物になりません。しかしこれだけの歯周病があってもほとんど「痛み」を感じられることはありません。

最近「周術期の口腔ケア」が医科・歯科の間でトピックになっています。

周術期とは手術の周り(前後)という意味で、特に免疫機能(細菌などの異物を排除しようとする働き)が低下する病気や治療の際に口の中の細菌が命にかかわる問題になる場合があります。具体的には、悪性腫瘍(がん)の放射線治療や抗がん剤治療、骨髄移植などが代表的なものです。

写真のような場合、歯ブラシで歯を磨くと歯ぐきから出血しますが、ここまで進行すると歯を磨かなくても出血しています。出血するということは微細な血管が破れているわけで、その血管の中に細菌が必ず入り込んで全身を巡ります。そのようなことが24時間365日続いていると考えられます。

前述のようにこのような方の免疫機能が低下するとどういうことがおこるでしょうか?

血流に乗って身体を巡っている細菌が身体のどこかに感染症をおこす可能性が高くなります。ただでさえ重い病気の治療なのに、そこに別の大きな問題を抱えてしまうことになります。手術は成功したのに術後に歯周病菌で命が脅かされることがあるのです。

ですので最近では、患者さんは事前に歯科の受診をもとめられるようになってきています。手術や治療の前に口の中を清潔にしておくためです。

歯科医側からの意見としては、「歯周病はそんなに短期間では治らない」ということです。手術を含め治療のスケジュールはあらかじめ決まっているので、歯科はその短い期間で口の中を清潔にすることを求められます。その期間でできる範囲で…。

この短い期間でも専門家(歯科医や歯科衛生士)といっしょに一生懸命口腔ケアを行なえばある程度細菌の数を減らすことができるので、感染症のリスクを下げることはできます。しかし十分に時間があれば、患者さんといっしょにもっともっと清潔で健康的なお口にして命にかかわる感染症のリスクを最小限にすることができるのです。

ここで大切なのは、日頃の正しい口腔ケアです。日頃からお口の中が清潔であればこのような心配はせずにすみます。正しい口腔ケアにはデンタルフロスが必ず必要です。その方法で完全にきれいにできるように虫歯を治療したり、歯との間に隙間のある修復物をピッタリ歯に合わせるようにやりかえたり、どうしても掃除の難しい歯は抜歯するという治療も必要です。

かかりつけの歯科医院でお口全体の詳しい検査を受けて今自分の口の中がどうなっているのかを正しく知りましょう。その上で正しい口腔ケアを習得され、治療やメンテナンスを受けて歯周病や虫歯のないお口を保ちましょう。そのことでいざという時に心配せずにすむだけでなく、生涯自分の歯を健康に保つことができます。なんとすばらしいことでしょう!

周術期のことについて書きましたが、歯の病気、特に歯周病は周術期に限らず糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞などの病気と関係があることがわかってきています。歯周病はもはや口だけでなく全身の、しかも命に直接かかわるような病気の原因になっています。

痛いから治療をするのではありません。お口の中を清潔にするために治療するのです。

 

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