前回まで「かぶせ物の下」というタイトルで、被せ物の下にあった虫歯の治療の経過を紹介しています。
なんとか歯が残せるように患者さん(A子さん)も本当によくがんばられました。
被せ物の下に潜んでいた細菌もなくなり、歯ぐきの状態も良好で、土台もできて、あとは正式な歯を作っていく工程です。
歯を設計するのですが、ただきれいな歯を作るのではありません。
歯には何年、何十年とても大きな力がかかります。その力が顎の構造と調和するよう、顎が動く中心になる顎関節の位置や筋肉の方向(力の方向)などを考慮して、歯の傾きや長さ、咬頭(歯の山)の位置を計算します。
相対する歯(この場合は上の歯)についても同じように設計します。
歯だけではなく口(顎)全体を調和させるように治療しますので、1本の歯であっても他のすべての歯が咬み合わせを作っているので、それらすべての歯について分析し、必要であれば調整します。
今回紹介しているのは右下の奥歯だけですが、実際には同時に上のすべての歯と左下の奥歯も治療しています。口全体のリフォームというわけです。
最初の写真のような治療中の過程が数か月つづきますが、その間は必ず仮の歯を入れますので、歯がない状態の時期はありません。会話や食事などは通常通りできます。
咬み合わせの調整をこの仮の歯の過程で行います。仮の歯はレジン(樹脂)製なので、盛りたしたり削ったりできるので、丁寧に調整して最終形に近づけていきます。
快適で、将来長くにわたって壊れにくい歯を作るために、私たちのクリニックではこの工程に十分時間をかけます。
ようやく最終的な歯ができました。
この歯(補綴物)は歯科技工士が作製しますが、私たちのクリニックの仕事はほぼすべて同じ技工士さんにお願いしています。
「仕事が丁寧」というだけではなく、前述のような咬み合わせの知識と理解も必要です。歯科医が設計したものが、きちっと形にならなければなりません。細かい専門的なコミュニケーションができ、お互いに信頼できなければなりません。技工士の立場から私がアドバイスを受けることも少なくありません。
このように治療が完成したのが約17年前ですので、とても懐かしいです。17年経った現在もA子さんはこのころから1本も歯を失うことはなく、失いそうな気配もありません。
A子さんは、1年に2~4回のメンテナンスを17年間欠かさずつづけておられます。このような姿勢にはこちらが感銘を受けます。すごいデンタルIQです。
最後になりますが、今振り返ってみるとこのときに全体的な治療ができて本当によかったと思います。それと同時に、治療を始められた18年前に1人の歯科医にご自身の口を預けられ、大きな治療にチャレンジされたその勇気に敬意を表したいです。
A子さんの治療とその後のフォローを長年受け持つことができて、歯科医として本当に幸せです。
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